安価に中継がしたいんだ!!!
5Rにエンコーダつけても余裕そう!

お久しぶりです。Syama.です。
今回は、立命館大学学園祭2023で弊局がお送りする特別番組「学園祭テレビ」にて使用する中継システムをご紹介しようかなーと思います!

※今回は「中継先の映像をどうスタジオまで伝送するか」というお話です。プログラムディレクターとディレクターがやり取りしたり、MCの声をリポーターが聞いたりするのにはDiscordを用いています。

まず、テレビ局の中継システムって?

※私はテレビ局の人ではないので、間違っていたらすみません。

中継車って見たことあるでしょうか?(左の写真)
あれにはアンテナが搭載されていて、専用の電波を使って映像を送信しています。直接テレビ局のアンテナまで送信したり、衛星を介したり…。

また、最近では、報道の現場等でスマホ回線を複数束ねたような機材を使うみたいです。
右の写真で、カメラマンさんがリュックサックを背負っているんですが、そのリュックサックからスマホ回線を8つ同時に使って映像を送信していたりするようです。(もっと知りたい人は「Live U」や「TVU」、「ボンディング」などでググってみてください)

ただ、この2つの方法で言えるのは...

こんなの高くて使えないよ!

ということ。
映像伝送できるくらいの電波局を自前で開局したり、中継車作ったりなんて、たかが大学生には到底できません!まず電波の免許が必要ですし、ウン千万~ウン億円みたいなお金も必要です。
リュックサックタイプの方はレンタルできたりするんですが、大学のネットワークセキュリティの都合上使えず、テレビ局の方法は学生ならではの制限のせいでどれも使えないんです。

中継を行う際に求められること

中継には…

「低遅延」かつ「高画質」が必須!

低遅延

テレビの中継で、スタジオのキャスターが呼びかけてから中継先のリポーターが反応するまでに間があいているのを見たことがあると思います。
あれは、専用の電波でも中継映像がそれだけ伝送に時間がかかっているということです。高画質な映像を伝送しようとすると、その分だけ時間がかかってしまいます。

YouTubeライブでも5~10秒、プロ野球の配信などは30秒ほど遅延しているはずです。

もちろん、そんなに時間があいてしまうと会話が成り立たないので、中継は2秒以下、もっと言えば1秒以下の遅延で済む方が望ましいです。

画質

「遅延が少ない映像伝送」で

ZOOMやLINEのビデオ通話じゃだめなの?

と思われた方もいるかも知れませんが、あれでは画質が非常に悪くなってしまいます。
Wi-Fiの不安定な場所で通話していると、表情が読み取れないくらいに映像が汚くなったことがあると思いますが、中継は屋外で行うので、問答無用でスマホ回線です。不安定な回線の場合、ビデオ通話アプリは自動で画質を落とすようプログラムされているので、すぐに見るに堪えない映像になってしまうことが考えられます。

そんな不安定な回線でも安定して高画質な映像を伝送できる技術が必要なんです。

以前やっていたこと

以前のRBCでは

  • スマホで中継する
  • カメラは大きいプロ用だけど、PCとキャプチャーボードとモバイル電源を背負って配信

ということをやっていました。

スマホは既存のアプリを利用することになるので、先述の通り画質がよくありませんし、素人目に見ても「中継だ!」って思ってもらいたいので、スマホだとカッコ悪いです()。

また、PCとモバイル電源を背負うのはカメラマンの体力を考えると現実的ではありませんし、PCソフトウェアなので処理が遅くて安定しません。

RBCでやろうとしていること

端的に言えば...

最新の安い機材 × スマホ回線1つで、クオリティを保ちつつ安価に中継しよう!

「SRT」と「H.265」で低遅延と高画質を両立

いきなり超技術ワード「SRT」「H.265」が出てきましたが、特に「SRT」は今放送業界で非常に注目されている新しい映像伝送方式です。最新技術を活用して貧弱なスマホ回線でも低遅延と高画質を両立できるようにしていきます。

画質を表すのに「ビットレート」という値を用いるのですが、YouTube Liveで1080pのライブ配信をする際の推奨ビットレートがH.264の約5Mbpsです。これをH.265に変えるだけで画質を保ちつつ2.5Mbpsまでビットレートを削れます。
さらに、これは意外かもしれませんが、低ビットレート帯だと1080pでも720pでも画質がそんなに変わらないんですよね。無理して1080pにするくらいなら720pに落としたほうがキレイなんて場合も。なので1080pから720pへ解像度を落として約1.1Mbpsまで削ります。

この約1.1Mbpsに必要なネットワーク帯域は、先述のリュックサックタイプ(Live UやTVU)で使われるスマホ回線1回線分と同等になります。ここまで削れば、複数回線を束ねなくとも安定した映像伝送ができるってわけです。

SRTって?

SRTとは、Haivision社が開発した「Secure Reliable Transport」の略で、不安定な回線でも映像が乱れにくく、更には暗号化も可能ということで、軍事にも用いられているような最新の映像伝送方式です。
ありがたいことにオープンソース化されているのですが、まだまだ歴史が浅く、最近やっと対応した安価な機材が増えてきたところです。
従来の方式(RTMP)では遅延が5秒以上かかっていましたが、SRTにすることで1秒未満にすることができます。

H.265って?

圧縮率の高い映像記録方式で、従来の方式(H.264)の約半分のデータ量で同等の画質を維持できます。その分、動画を再生する時やデータ化するときの処理が大変なので、PC・スマホの性能が上がってきた今だからこそみんなが使える方式といえます。
最近のiPhoneだとデフォルト設定で撮影した動画はもれなくこの方式です。

サーバーを立ててネットワーク問題を解決

一般的なネット回線だといいんですが、RBCは学内から発信するという関係上、大学のインターネットを利用せざるを得ません。安定した有線のネットを使わない手は無いので。

ただ、ここで問題となるのが、セキュリティの関係で学外から学内のネットワークへアクセスすることができないということです。中継映像をスタジオまで送ってくるには、学外のネットから学内へアクセスしなくてはいけません。一部の研究室ではそれもできるようですが、RBCは教授でもないただの一般学生の集まりですし、学園祭テレビのような臨時の番組のためにそんなことは流石に大学もしてくれません。

そこで、サーバーを立てることにしました。
新たにVPSを借りて、以下のページを参考に、UbuntuとGStreamerでSRTリレーサーバーを構築しました。中継カメラは映像をサーバーに送信、スタジオ側はサーバーまで映像を迎えに行くことで、先述のネットワーク問題を解決しています。(専用ワードを使うと、サーバー上ではSRT Listenerで受けてSRT Listenerで送り直しています。)

以前は、SRT Live Serverという別のプログラムを使おうかとも思ったんですが、構築が簡単な反面、時々フレームが飛ぶのであんまり使えないなということでGStreamerを利用しています。

 

安価なエンコーダとデコーダ

SONY NX5Rにエンコーダつけても余裕そう!(撮影:Syama.)

カメラから出力される映像信号をインターネットに流せるようなデータにすることを「エンコード」、反対に、データをディスプレイに表示できるようにすることを「デコード」と言います。これらは、みんなスマホで日常的に行っていることですが、エンコード・デコード専用の機材を使うことで、より高速により安定して処理することができます。

SRTかつH.265に対応したエンコーダ・デコーダは、最新技術だけあってまだまだ流通していません。SRTを作ったHaivision社は自社製品を販売しているんですが、非常に高いんです。1台100万円するんだとか....その分品質はピカイチだそうですが...

流石に買えないな...と悩んでいたところ、高コスパなモデルを見つけました。Magewellというメーカなんですが、なんと8万円でSRTとH.265に対応しているということで、導入してみました。

エンコーダ:Magewell Ultra Encode SDI

2022年に発売開始された機材で、ちょうど手のひらサイズくらいなんですが、SRTとH.265に対応するどころか、

  • 同時に複数配信可能
  • モバイルバッテリーで駆動
  • USB SIMモデムを挿せば、単体でスマホ回線も利用可能

とめちゃくちゃ有能でした。このサイズならカメラにつけてもへっちゃらですね。

デコーダ:Magewell ProConvert for NDI® to AIO

こちらも手のひらサイズなんですが、HDMIとSDIの両方から出力できるのが強いですね。
RBCの場合だと、映像はスイッチャーへ、音声はミキサーへ分けて入れたいので、SDIはスイッチャーへ繋ぎ、HDMIは音声分離器に繋いでいます。

※NDI®はNewTek社の登録商標です

余談

RBCはLive U Soloを持っているので、一応、ボンディングできるんですが、ボンディングの仕様上、伝送に関わるサーバーが増えてしまって遅延を2秒以下にするのが難しいため、Magewellのエンコーダを使用しています。せっかくライセンス更新してBPバッテリアダプタまで買ったのに....トホホ

気になる結果は...

そんなこんなで、プロの方々が数百万〜数千万、数億円とかけてやっている中継を、技術やらを駆使してたった20万円でやろうとしているのが今回のお話でした。
※「20万は大金だろ」と思ったそこのあなた!安定性をもう少し犠牲にすれば(エンコーダ・デコーダを使わなければ)5万円以下に抑えることも可能ですが、我々も一放送局として安定性に投資したまでです。ご理解ください。

「どれくらいキレイ?」「どれくらいの遅延?」など、気になってきたかと思います!
その結果は、RBC公式YouTubeチャンネルにて「学園祭テレビ2023」本放送をご確認ください!

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